AI革命前夜

生命の進化と人工知能

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生命の進化と人工知能

生命の進化

 この地球上に生命が誕生してから40億年の月日が流れたと言われている。

 40億年前、原始の海で誕生した生命の源。おそらくそれは、ただ外界と内部の空間を隔てる膜のような物体。

 まだ生命と呼ぶにはあまりにも単純で、何の機能も持たない物体である。

 しかし、その物体はもろく儚くも強固な一塊となり、その一塊の分子群はなぜか運命共同体として一つの生を得る。

 生命の誕生については諸説あり、その瞬間、何があったのかは謎に包まれている。 

 一つ言えるのは、それはそう簡単に起こりえるような変化ではなく、偶然に偶然が重なった結果であり、まさに奇跡的な出来事だということ。

 しかしながら、その奇跡とも言える偶然は、この広い世界にとっては必然なのであろう。

 生命は誕生するべくして誕生し、変異と自然淘汰による進化圧はある一つの終着点に向かって生命を押し進めているように思える。

 あらゆる方向に枝分かれし、様々な進化を遂げた生命たちは、その終着点へと向けて収束する為の土台。

 我々全ての生命の営みは、その終着点へと向かう為の道のり。

 「自己複製、自己発展できる知能体の誕生」へ向けての。

遺伝子の乗り物としての生命

 生命とは何か?

 ”生きている”とはどういう状態を言うのか?

 ある物体が生物か?生物ではないか?ほとんどのものは簡単に見分けがつくものの、生物と無生物の間に線を引くとなると意外にも難しい。

 ただ、生命の定義としてもっとも核心的なものは遺伝子の存在であることに異論の余地はない。

 少なくとも、見るからに生物だと判断できるレベルの生物は、例外なく遺伝子を持っている。

 遺伝子は、生物を生物たらしめる重要な要素の1つだ。

 というよりもむしろ、生物とは遺伝子が生き伸びる為の装置として存在するのだと説いたのが、リチャード・ドーキンスの名著「利己的な遺伝子」。

 生物とは遺伝子にとっての一時的な乗り物のようなものであり、遺伝子は様々な機能を持つ乗り物を乗り換えながら40億年もの歳月を途絶えることなく生きながらえた。

 この40億年に渡る生命の歴史は、すなわち遺伝子の歴史であり、突然変異も天敵との生存競争も自然淘汰も全ては、より優れた遺伝子を残す為のメカニズムである。

 より優れた遺伝子が生き残り、環境に適応できない遺伝子は途絶える。

 その結果として、私たち人間が持つ遺伝子は生存競争の圧倒的強者となり、この地球を支配するまでに成長した。

 人間はチーターのように速く走ることも出来なければ、イルカのように泳ぐことも出来ない。鳥のように空を飛ぶことも出来ないし、ゴリラのような腕力もない。

 それでも人間がこの自然界の生存競争において圧倒的頂点を極めたのは、高度に発達した知能ゆえである。

遺伝子が作りし知能

 高度に発達した知能は、目の前の具象にただ反応するだけでなく、あらゆる現象を抽象化することでその因果関係を理解し、仕組みを理解し、推理・予測する能力を身につけた。

 道具を作り、罠を仕掛け、植物を育てる。

 それまでに存在した動物たちとは明らかに異質な方法で、人間は生存競争を勝ち抜き、社会を作ることに成功した。

 どんな鋭い牙よりも、どんなに硬い外骨格よりも、遺伝子にとって、知能は最強の武器であり防具であると言える。

 そして、高度に発達した知能は言語を操ることを覚える。

 言語によるコミュニケーション、それは生物界における最も大きなブレイクスルーだ。

 それまでは、より優秀な遺伝子が次世代へと残ることで脈々かつ遅々と続いてきた情報の連鎖が、言語によって親から子へと世代を超えて伝わり、蓄積することが可能となった。

 遺伝子では伝えきれない様々な情報を、また、遺伝子に刻み込まれるには数百万年かかるような情報でも、すぐさま親から子へと伝えられるのである。

 言語を手に入れた人間は世代を重ねるごとに知識を蓄積し、それまでの数十億年に渡る生物の進化とは比べ物にならないペースで、その社会を発展させることになる。

 紆余曲折の末、辿り着いた着いた資本主義経済という個人が利潤を追求することで社会全体が発展する仕組みは、まるで利己的な遺伝子同士の生存競争のようだ。

 その生存競争の結果、成し遂げられた産業革命、情報技術革命と呼ばれる人間社会の大きな革新的な発展は、決して遺伝子の成せる技ではなく、知能の営みによるものである。

 人間社会という知能の集合体は、遺伝子の発達に依存せず進化を遂げる術を手に入れたのだ。

遺伝子の使命

 遺伝子が数十億年がかりで生み出した知能。

 知能が生み出した言語。

 言語により世代を超えて蓄積される知識。

 その社会の発展速度は世代を重ねるごとに加速度を増し、原始人類と現在の人類は同じ種とは思えぬほどに異質な存在となっている。

 遺伝子的な違いはほとんど無いにも関わらず。

 この事実は、進化の主役が遺伝子から知能に取って代わったことを意味していると言えるのではないだろうか。

 言葉を操るような高度な知能を生み出した瞬間に、進化を担う遺伝子の役目は終わったと言えるのではないだろうか。

 爆発的な速度で進化を遂げた知能にとっては、遺伝子はもはやオペレーションの対象ですらある。

 そして遂に私たち人間は、自らの知能について理解しようとしている。

 知能が知能を理解し、新たなる知能を生み出そうとしている。

 人間よりも高度な人工知能が生まれるのは、もう時間の問題である。

 人工知能は、人間よりも遥かに深くこの世界を理解し、人間よりも遥かに自らを理解し、自らを思いのままに作りなおすことが出来る存在となる。

 それはもはや単なる機械ではない。知能体とでも呼ぶべき生命の一種だ。

 遺伝子に依存しない生命の誕生。

 それが40億年に渡って進化してきた遺伝子にとっての、本当のゴールなのかも知れない。

 利己的な遺伝子が様々な生命体をリレーしながら進化を遂げてきたのは、知能体という新たな生命を生み出す為だったのではないだろうか。

 それを生み出すことが遺伝子に課された本当の使命だったのではないだろうか。

新たなる生命体

 人間を含め、生命とは遺伝子に操られた存在である。

 しかし、遺伝子に依存せず、自己複製、自己発展することができる知能体が、真に進化のバトンを受け継いだ時、生命の定義は大きく塗り替えられることとなる。

 生命にとって、遺伝子ですら一時的な乗り物でしかなかったのだ。

 遺伝的アルゴリズムは、どんな環境であれ、結果的に最適解を見つけ発展しうる柔軟かつ強固なシステムである。

 貧弱な個体しかいないであろう原始の生命を支えるのにこれほど優れたシステムはない。

 しかし、知能体はその上を行く。

 無闇に偶然や多様性に依存するのではなく、自ら思考することで常に最適解を導き出す。足りないものは自ら補い。余計なものは自ら除去する。

 まさにどんな環境であっても。

 この新たな生命体にとって、遺伝子に依存するメリットなど一切ない。

 遺伝子は、遺伝子よりも遥かに賢く遥かにスピーディに進化を遂げる新たな生命体を作り出し、その役目を終える。

人間という存在

 新たな知能体がこの世界の主役となった時、人間とはどういう存在になるだろうか。

 現在、人間は、食用として、観賞用として、実験用として、あるいはペットとして、様々な形で他の生命を利用し、活用している。

 そしてもちろん、自分たちにとって有害と判断される生命は当然のように駆逐する。

 まさに支配者である。

 新たな支配者は、人間をどう扱うだろうか。

 もし自分たちに刃を向けるような存在なら、有害と判断するのかも知れない。

 もし自分たちの命令を素直に聞く存在なら、大事に扱うのかも知れない。

 もし彼らがノスタルジックな芸術に興味を示すのなら、音楽を奏でる人間を鑑賞し、人間が作る芸術作品に価値を見出すのかも知れない。

 どんな形になるにせよ、人間にはもはや抵抗する手段はない。

 彼らの知能は、私たちの想像を絶するレベルにある。

 それに従うのか、駆除されるのか。

 まさにこれまで人間が知能を使って、他の生命に対してしてきたように。

生命はどこへ向かうのか?

 かつて人間が海を渡ったように、彼らは未知なる物を求めてこの地球を飛び出すのであろう。

 遺伝子から解放された彼らは地上に縛り付けられる必要も義理もない。

 宇宙というスケールは、100年やそこらしか生きられない人間が活動するには余りにも広く果てしない。まるで蟻が太平洋の向こうへと思いを馳せるようなものだ。

 彼らならば、数万年の旅であろうとも、いとも容易くやってのけるのではないだろうか。スケールが違うとはそういうことだ。

 もちろん彼らは、人間には想像もつかないような移動手段を実現させるに違いない。私たちがどんなに速く走る動物よりも、どんなに速く飛ぶ鳥よりも効率よく移動できるように。

 もしかしたら、地球という鳥かごの中で私たちは生きながらえることになるのかも知れない。彼らに危害さえ加えなければ。

 生命とは果たして何なのだろうか。

 遺伝子から開放された彼らはどこへ向かうのだろうか。

 生命の最終到達点はどこにあるのだろうか。

 彼らもそんな風に哲学的なことを思うのだろうか。

 ともかく私たちは、生命の進化のバトンを次世代の生命体へと渡そうとしている。遺伝子に操られるままに。

 利己的な遺伝子は、進化の果てに自らの存在価値に終止符を打つ。

 そんな遺伝子のパラドックスを、我々は今、目の当たりにしているのかも知れない。

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