AI革命前夜

ホーキンスが唱える知能のアルゴリズム「自己連想記憶理論」

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ホーキンスが唱える知能のアルゴリズム「自己連想記憶理論」

 ジェフ・ホーキンス著「考える脳 考えるコンピューター」を読みました。

 ホーキンス?宇宙物理のホーキング博士じゃなくて?

 と思った人はど素人です。僕もですw

 この本は2005年に発売されたものなので、そんなに新しいものでもありません。むしろ最近の人工知能、脳科学のブームを思うと古いとさえ言えます。

 古いんですけど、読んでみてビックリです。

 正直、10年も前にここまで知能の本質に迫った仮説があったとは驚きでした。

 なぜ今まで読んでなかったんだ・・。

知能のアルゴリズム

 人間が持つ高度な知能は、大脳新皮質の働きによるものと言われています。

 新皮質というのは、脳と言われたら誰もが想像するであろうしわしわのプルプルのあれです。脳の一番外側を覆っています。

 新皮質は厚さ約2mmのシート状の組織で、広げると大きめのナプキン程度の大きさがあるそうです。それをぎゅっと縮めて無理やり頭蓋骨内にねじこんだような状態ですね。

 長年の研究から、新皮質はだいたい決まった場所で決まった処理をしていることが知られています。

 例えば視覚に関する処理を行う視覚野、言語に関する処理を行う言語野っていう風に、各領野ごとに処理する内容は決まっています。

 ところが、解剖して顕微鏡で覗いてみると、新皮質の構造は驚くほど均質だそうです。どの領野を見ても同じような構造(6層構造)が見られます。

 構造的にはほぼ同じものが、なぜ視覚を処理したり、聴覚を処理したり、運動を処理(命令)したりと言った全く違う機能を持ちうるのか?

 長い間、研究者たちはそのよく似通った各領野にあるはずの違いを探しました。その違いこそがその領野が持つ特徴的な機能の仕組みを説明する決定的な部分だと考えたわけです。

 しかしいくら新皮質をくまなく探しても、視覚野にあるはずの視覚を司る何かは見つからず、聴覚野にあるはずの聴覚を司る何かは見つかりません。

 なぜ機能が局在しているにも関わらず構造はここまで均質なのか?

 その謎に一つの答えを出したのが、マウントキャッスルという研究者でした。

 1978年、マウントキャッスルは「大脳機能の構成原理」と題した論文にて「注目すべきは違いではなくその類似性にある。新皮質では視覚であろうと聴覚であろうと、感覚であろうと運動であろうと、全て共通のアルゴリズムによって処理されているのではないか」という大胆な仮説を発表しました。

 ただ、共通のアルゴリズムだと言われても、「見る」も「読む」も「聞く」も感覚的にはそれぞれ全然違うものなので、当時の研究者のほとんどはその仮説に意義を見いだせませんでした。

 ところが、ホーキンスはこの論文を読んで椅子から転げ落ちそうになったそうです。これこそが神経科学における世紀の大発見だ!と。

 新皮質が処理しているのは映像でも音でも匂いでもない。目から入ろうが、耳から入ろうが、ニューロンにとってはそれらの情報は等価であり、単なる活動電位のパターンでしかない。

 単なるパターンでしかない電気信号をやりとりするだけで、外界を認識し、知能的な活動を行うことができる新皮質とは一体どういったアルゴリズムで動いているのか?

 その仮説について見事にまとめあげているのが本書「考える脳 考えるコンピューター」です。

 本書は一般向けの本なので、特に専門知識のない人でも楽しんで読めるように配慮して書かれていますが、論文として学会ででも発表していたら、もっと学術的に話題になったんではないかと思われるような内容です。

 ホーキンスさんはもともと学者ではなく企業家だそうで、この本は若い人たちが人工知能の開発を目指すきっかけやヒントとなることを期待して一般書籍の形で販売したそうです。

 本書の中で著者は「自己連想記憶理論」という名の新皮質全体に共通したアルゴリズムを提唱しています。

 なぜ人間はこの世界(外界)を見て聞いて考えて、理解することが出来るのか?

 なぜトランジスタよりも遥かに計算速度で劣るニューロンが、コンピュータがいくら計算しても出せないような答えを一瞬にして閃くことができるのか?

 「自己連想記憶理論」は、そのような謎を見事に説明しています。キーワードは「予測」と「階層」です。

 詳しくは説明しきれませんが、興味のある人はぜひ読んでみてください。

突っ込みどころ

 というわけで実に見事な仮説なのですが、突っ込みどころなきにしもあらず。

新皮質の仕組みだけで知能的活動を説明できるのか?

 そもそもホーキンスさんは「知能」に特化した機械を作る為に、新皮質のアルゴリズムを研究していたそうです。決して人間の脳そのものを再現するのではなく、その「知能」だけを抽出して機械化したかったわけです。

 新皮質が知能的な活動を司っているのは間違いないですが、言うまでもなく新皮質は他の部位(基底核、辺縁系、視床、海馬などなど)と連携して動いています。

 小脳(運動をスムーズに行う為の調整役)なんかは明らかに新皮質よりも下位の存在と言えますが、本能や欲求などを司る(脳の進化において古くからある)部位は、新皮質よりも下位にあるとは言えないと思います。

 原始的な欲求は何よりも根本的な存在であり、むしろ最上位にあるとさえ言えます。

 もっと具体的に言えば、新皮質より上位の部分が自然発生的にパルスを発生させるからこそ、そして上位から来たパルスと下位(感覚器等)から入ってきたパルスとが新皮質で出会うことにこそ、何らかの意味があるのかも知れません。

 その欲求(パルス)が発生する仕組みをないがしろにした状態で新皮質の神経学的アルゴリズムを構築しきれるものかな?という疑問は残ります。

 偉そうなこと言うてごめんなさい。

新皮質に心が理解できるのか?

 ホーキンスさんは、この自己連想記憶理論を実装した自動運転AIなら「もし前の車がウィンカーをずーっと点けっぱなしで走っていたら、それは運転車がウィンカーを消し忘れているだけだということも気づくことができるだろう」と言います。

 それは他者の心を想定した想像ですが、果たしてどうでしょう?

 自己連想記憶理論は、世界を客観的に観察し理解することは理論上、非常に理に適った仕組みです。

 しかし、おそらく新皮質だけで「感情」の仕組みは説明できないように、仮に自己連想記憶理論によって汎用的な知能を持つ機械が完成したとしても、まさしく無機質で冷徹なものになると思います。

 果たして新皮質のアルゴリズムだけで、時に理不尽であり時に不正確である「感情」や「心」というものを理解することができるのでしょうか?

 ずっとウィンカーを出しっぱなしで交差点を平気で直進する車があることを観察しても、たまにそういう例外があると認識するだけであって、運転者の心までは想像できないのではないでしょうか?

 もっと言えば、「心」が欠落し、「感情」というものを体感することなく、果たしてこの世界を理解することができるのでしょうか?

 と、そんな風に本気で思えるほどに、ホーキンスの自己連想記憶理論は「心」のない「知能」を再現する可能性を感じさせてくれます。

ホーキンスさんの今

 ホーキンスさんは本書を書いた後、Numentaという会社を立ち上げて、自己連想記憶理論を元に汎用的な知能を持つ機械を実現するべく研究開発を続けています。

 本書が書かれてから10年以上が経過していますが、まだ彼が目指す本物の人工知能は実現していないようです。

 自己連想記憶理論は新皮質の働きを非常に上手く説明してはいますが、もちろん新皮質の仕組みが全て解明されているわけではないので、その機能を機械として再現するというのは簡単なことではないと思います。

 しかしながら、安易にお金を稼ぐ為の道へ進まず、大きな目標に向かって我が道を行くその姿勢には感銘を受けます。倒産しないようにお金も稼いで下さい。。

 「Numentaが汎用人工知能の開発に成功!」と、いつか世界中に衝撃が走るビッグニュースを期待してます!

蛇足

 この本の出版社であるランダムハウス講談社っていう会社は既に倒産しているらしく、この本は絶版になったらしいです。残念すぎます。

 Amazonで中古が出回っていますので、早い者勝ちです。

 定価は1900円なのですが、前Amazonで見た時には8000円以上の値がついていたのでさすがに買わなかったのですが、近所の図書館にこの本があるとの情報を得た為、借りにいって読みました。

 で、後日見たらAmazonで4000円に下がってたのでこれはチャンス!と思ってちょっと高いけどポチりました。是非とも手元に置いておきたい一冊だったので。

 で、後日見たら2000円に下がってました。どないやねんっ!

 今ならこの値段で買えます↓

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